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2018年2月18日 (日)

「流域地図」から考えてみる

~さかもっちゃんの知ったかぶりぶり 179~

青森県の日本海側に、鯵ヶ沢町という鄙びた港町があります。NHK大相撲解説者 舞の海さんの出身地として知られていますが、同じく津軽出身の太宰治は小説「津軽」の中で、この町を次のように描いてます。やや長文引用の上に旧仮名遣い、なにとぞ御容赦下さい。

「私は、深浦からの帰りに、この古い港町に立寄つた。この町あたりが、津軽の西海岸の中心で、江戸時代には、ずいぶん栄えた港らしく、津軽の米の大部分はここから積出され、また大阪廻りの和船の発着所でもあつたやうだし、水産物も豊富で、ここの浜にあがつたさかなは、御城下をはじめ、ひろく津軽平野の各地方に於ける家々の食膳を賑はしたものらしい。…(中略)… この町は長い。海岸に沿うた一本街で、どこ迄行つても、同じやうな家並が何の変化もなく、だらだらと続いてゐるのである」

明治時代になると、鉄道網の発達とともに海運の中継地としての機能は廃れ、鯵ヶ沢は沿岸漁業の町となりました。漁業の他はこれと言った産業も無い、典型的な寂れた小さな港町のイメージでしょうか。

話は跳んで、世界自然遺産の白神山地。青森県と秋田県にまたがる広大な天然ブナ林で有名です。白神山地の県境付近に「二ツ森 (ふたつもり)」と呼ばれる標高1087メートルの山があります。実は、この二ツ森、先に述べた鯵ヶ沢町に属しているのです。鯵ヶ沢町の中心部からは、なんと90キロメートルもの距離。関東で例えれば、東京駅から山梨県の大月、埼玉の本庄や群馬の太田あたりの距離でしょうか。

太宰治が書いたように、鯵ヶ沢の商店街は海岸沿いだけで、残りの大部分は住む人もいない山岳地帯。しかも、そんな山岳地帯がはるか秋田県境まで90キロ近く延々と続きます。それにしても、鯵ヶ沢町の行政区域って、なんでこんなに細長く歪なんでしょう?

その謎を解くカギは、2つの大きな川(赤石川と中村川)にありました。これらの川は鯵ヶ沢町の漁港近くで日本海に注ぎますが、その源流ははるか彼方、前述の白神山地の県境「二ツ森」付近。秋田県境付近の源流から日本海の河口まで、延々90キロメートル。鯵ヶ沢町の行政区分地図は、この2つの川の「流域地図」そのものだったのです。

「流域地図」って、あまり聞き慣れないことばですが、東京・神奈川を流れる多摩川を例に考えてみましょう。多摩川の「流域地図」は、東京都の奥多摩町、青梅市、あきる野市、羽村市、福生市、昭島市、立川市、国立市、府中市、八王子市、日野市、多摩市、稲城市、調布市、狛江市、世田谷区、大田区、そして神奈川県川崎市まで、なんと18もの市区町村を含みます。「流域地図」には、都県境を越えてもともと「武蔵国多摩郡」だった歴史的・地域文化的に一体感のある地域が広がります。

多摩川の堤防が現在のように頑丈ではなかった時代、多摩川はたびたび氾濫しました。最近の例では、昭和49年(1974年)9月、狛江市付近で堤防決壊した「狛江水害」が知られています。首都圏の住宅地で、しかも多摩川の本堤防が決壊するという、信じられないような光景でした。

この大水害は多摩川沿いの各自治体(例えば、東京都狛江市と神奈川県川崎市など)が、個別に災害対策をしてもまったく意味がないことを世に知らしめました。河川の環境防災対策は行政区分単位ごとに行うのではなく、「流域」全体が1つの生態圏として行う必要性があるのです。そこに「流域地図」の意味と意義があります。

さて、再び鯵ヶ沢町。源流から河口までの川に沿った90キロにも渡る細長~い行政区分は、形こそ歪ですが、「流域地図」全体をたった1つの町でカバーしています。これは、防災上、極めて合理的と言えるでしょう。

「流域地図」に18市区町村が混在する多摩川とは大違いですね。ここは鯵ヶ沢町を見習って、多摩川沿いの18市区町村は、東京都と神奈川県の枠を越えた「多摩県」または「武蔵県」として大合併し独立すべきでしょう。その県庁所在地はもちろん、「武蔵国多摩郡」の国府があった府中市です。

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コメント

「青森県鯵ヶ沢町」

すいません。初めて知りました。生まれも育ちも関東の私としては、まさになじみのない地名です。関東と東北の地図を見て勘違いしがちなのは、その広さの差ですね。鯵ヶ沢町、南北に90キロも続くのですか。

日本に昔からある集落意識。特に秋祭りで、町単位で神輿を出して対抗する、あの意識。災害対策には時として弊害になる考え方かと思います。

「多摩県」「武蔵県」としての大合併。面白い考え方ですが、おそらくこの集落意識がある限り難しい。地方自治体に働く人は、当然地元に忠義心が働くでしょうから。仮に合併がなされたとしても、県庁所在地となる府中市は、まさに「不忠者」と罵られることでしょうね。

投稿: soji | 2018年2月24日 (土) 09時51分

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