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2013年5月19日 (日)

カラスはいつから嫌われ者になったのか? (後編)

~さかもっちゃんの知ったかぶりぶり 122~

前回のエッセイで見てきたように、江戸時代から大正の頃まで、カラスは人々から愛されていました。江戸時代の浮世絵や古い神社の御守り然り、それに、野口雨情が作詞した童謡「七つの子」然り。

こんなにも愛されていたカラスは、いつから嫌われ者になってしまったのでしょうか。そして、愛情が憎悪に変わったのはなぜでしょうか。今回は、そんなカラスと人々との間に横たわる、ドロドロ愛憎劇の世界に迫りたいと思います。

前編でも触れましたが、人々からカラスが嫌われる最大の理由は、「全身真っ黒」なこと。「全身真っ黒」に由来する不気味な悪役イメージはかなり強烈です。それはカラスに限らず、様々な物語に登場する悪魔や魔女、その使いの黒猫、コウモリなどなど、「黒」は悪や不吉の象徴。もしカラスが白かったら、ここまで嫌われることはなかったでしょう。

現代ニッポンにおける、「黒」のイメージをちょっと列挙してみましょう。
・「黒星」は負け
・「クロ」は犯人
・「黒幕」は犯罪などの陰の首謀者
・「黒い霧」は不祥事
・「黒い噂」はスキャンダル
・「ブラックリスト」は警戒すべき者の名簿
・「暗黒街」は犯罪多発地域
・「黒魔術」は他人に危害を与える呪い
・「黒」は葬式や喪服の色

見事に負・ネガティブのイメージばかりが並びますね。特に、「黒」は洋の東西を問わず「死」と強く結び付いています。私の故郷、青森県津軽地方では、今でも、カラスが家の屋根に止まると「今度は私の番かな?」などと、その家の老人たちが不安がるほど。

さて、ここからが本題です。先ほど、「黒は洋の東西を問わず、死と結び付いている」と書きましたが、それは現代の話。もともと日本の喪服は「白」でした。時代劇の切腹シーンも「白装束」ですし、明治の終わりごろまでは「白い喪服」が普通だったようです。

ではいつ頃、日本の喪服は白から黒に変わったのでしょうか?文明開化以降、明治政府の「欧米化政策」に伴い、次第に日本人の生活様式も西洋化していきましたが、喪服だけはなかなか西洋化しませんでした。

それが、明治天皇の崩御に際し、式に臨席するものは列強に笑われないように「皆、黒い礼服を着用すること」とのお触れをきっかけに、「喪服は黒」のイメージが急速に定着したようです。それでも、地方では昭和に入ってもしばらくは白い喪服を着ていたそうですし、現在でも、亡くなった人の家族が白い喪服を着る地域もあります。

さて、賢明な読者の皆さんは既にお気付きかも知れません。喪服が白から黒へ変わる時代と、カラスが嫌われものになった頃がほぼ同時期であることを。野口雨情が童謡「七つの子」でカラスへの愛情を思い切り表現した大正時代は、まさにカラスが愛された時代の最後の輝きだったのです。

もっとも身近な野鳥でありながら、もっとも忌み嫌われるカラス。言うまでもありませんが、カラスは大昔から、それこそ人類が地球に誕生する遥か遥か前から、ず~っと黒い羽毛におおわれていました。カラスは何ら変わった訳ではなく、もっばら人間側の事情によって、カラスへの愛情が憎悪へと変わってしまったのです。

カラスと同じ時期に、嫌われ者になってしまった「黒い生き物」が、もう1つあります。それは、ゴキブリ。

江戸時代、カラスと同様、ゴキブリも確かに人々から愛されていました。ゴキブリが家にいることは自慢のタネでした。それは、蔵のあるような立派な家でないとゴキブリはいなかったから。普通のあばら家の民家はすきま風で寒く、ゴキブリは住めません。ゴキブリが住み着くことが出来るのは、蔵のあるような立派な家だけだったのです。

江戸時代、「うちにはゴキブリがいるんですよ~」とのゴキブリ自慢は、「うちは蔵のあるような立派な家なんですよ~」と同義。「ゴキブリが家に増えると金持ちになる」という俗信がありましたが、ある程度、真実だったと思われます。そのため、江戸時代、ゴキブリは黄金虫(コガネムシ)とも呼ばれていました。現に今でも、ある地方ではゴキブリを黄金虫と呼んでいるとか。

黄金虫は金持ちだ
金蔵建てた蔵建てた

この有名な童謡に出てくる「黄金虫」も、実はゴキブリだったとの説があります。江戸時代、ゴキブリが家に増えると金持ちになるとの俗信に照らし合わせれば、歌詞の深い意味が理解できます。

最後に驚きの事実を1つ。この童謡「黄金虫」の作詞者ですが、実は、前編で挙げた「七つの子」と同様、野口雨情。西洋化の波に押され、「黒」のイメージが悪や不吉の象徴へと変化しつつあった時代、野口雨情はカラスやゴキブリへ最後の愛情を示したかったのかも知れません。

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